企画トップスペシャルインタビュー
三菱UFJニコス株式会社
代表取締役社長 和田哲哉氏
 
Profile
兵庫県出身、
1976年京都大学法学部を卒業後、
㈱三菱銀行(現㈱三菱東京UFJ銀行)に入行。
常務取締役リテール部門長や常務執行役員アジア本部長などを歴任し、
2010年三菱UFJニコス㈱代表取締役副社長、
2011年4月より代表取締役社長に就任。
 
頼り合えることの心地よさを実感
 
ダイアログ・イン・ザ・ダークを体験されたご感想、暗闇で感じられたことを教えてください
完全な“照度ゼロ”の世界に身を置くことが初めての経験でしたから、とても強い衝撃を受けました。最初は不安でしたが、暗闇の中、アテンドの方の声に導かれ、一緒に体験された周りの方々に頼ること、頼り合うことで、次第に心地良くなりました。

また、あの状況でものに触れる感覚や飲んだり食べたりする行為の一つひとつが、とても鮮明に記憶に残っています。神経が非常に鋭敏になっていたのでしょう。見えていると何も考えずにごく当たり前のこととして行っていることが、まるで初めて体験することのように新鮮でした。

一緒に体験させていただいたのは初対面の方がほとんどでしたが、エクササイズを行う際に、皆さんと知恵を出し、力を合わせたことが、とても楽しい充実した記憶として残っています。一緒に体験された方々も暗闇に入る前は、どちらかというと肩書きを背負って固い印象でしたが、おそらく皆さんも同じようなことを感じられたのだと思います。この体験の後の懇親パーティでは、今まで着ていた重い鎧を脱ぎ捨てたかのように打ち解け合うことができました。
 
ご体験前と価値観に変化はありましたか?
価値観の変化というより、再認識したことがあります。原点回帰といいますか、人の根底にあるぬくもりを実感しました。人はひとりでは無力で孤独であること、人の優しさや温かさ、頼り合うことの心地よさ、そして安心感を思い出しました。このような深い世界を、もともと私自身も知っていたはずですが、ずっと忘れていたことに改めて気づいたのです。

ダイアログ・イン・ザ・ダークは母親の胎内の疑似空間なのかもしれません。母親の胎内というのは全人類が体験しており、かつとても優しい空間です。この体験は、人が生まれてから様々に経験してきたことを原点に戻す効果があるのではないでしょうか。だから、とても素直な気持ちになれる。原点に戻り、心が浄化されることによって、感性が磨かれるのだと思いました。
 
共通の体験で感性を養う
 
ビジネスにおける、ダイアログ・イン・ザ・ダークの効果的な活用シーンについてお聞かせください
ビジネスにおいて、感性は必要不可欠です。当社は4つの会社が合併してできた会社です。銀行やカード会社の出身者などに加え、派遣社員やアルバイトも多数在籍し、5300人ほどの従業員が非常に多種多様なバックグラウンドをもっています。当然、それぞれの能力を発揮しながら連携し合うことが重要になりますが、それを言葉だけで伝えても効果はありません。一人ひとりの感性が磨かれて、今これをやるべきだと自分自身で感じない限り、本来の意味での協調や連携は実現しないのです。

“CSやES”についても同じです。この言葉は大変レトリックで、その意義を理解してもらうための説得をしてしまうことがあります。しかし言葉やマニュアル、具体例などの知識で教えるものではなく、自身で感じ取り(感性で)行動することが大切なのだと思います。

また当社では、エンターテインメントやトラベルなど従来のクレジットカードのご利用に加え、お客様により豊かな人生のご提案をしてきたいと考えています。しかし、今までのトラディショナルな考え方や感性では、お客様に新たなご提案などできません。

刻々と時代が変わり、環境が変化しています。それらを敏感にキャッチし、お客様のニーズの先をいく商品をご提供していかなければならないのです。たとえば、震災後に通販やインターネットの売り上げが増えたり、海外からのお客様が日本から離れてしまったり、様々なことがありました。しかし今、街を歩いていて妊娠されている外国人の方を見ると、海外の方から見た日本の安全性も回復しつつあるのだと感じます。また、歩いている人の声でもわかります。明るく楽しそうなのか、あるいは憂鬱なのか、それによっても時代の流れや環境の変化は感じられます。そういうものを感じとることがビジネスでは、大変重要なポイントになるのだと思います。

勿論、“感じる”といってもなかなか難しいことではありますが、ダイアログ・イン・ザ・ダークを体験することによって、感性を磨くことにつながるのではないでしょうか。

人は性別や年齢、育った環境、そして考え方も千差万別ですが、先述した母親の胎内という原点での共通体験をもっています。その共通体験を通して感じることが大切です。
ですから、当社ではできるだけ多くの社員にダイアログ・イン・ザ・ダークを体験してもらいたいと思っています。

同じ照度ゼロの環境で、様々な方々と一緒に時間を過ごすし、人間の奥にある本来の優しさに触れることを共有してもらいたいと。その共通体験を通して、新しい時代が求める感性を磨いてほしいと思っています。

これからは少子高齢化がますます進み、多様化が加速します。そのなかで我々はどのような商品やサービスで、お客様に豊かな人生をご提案できるのか、あるいはお客様へどのように応対したらよいのかということは、マニュアルで教えられるものではありません。

我々が原点に立ち戻って、時代に合わせ、感性を活かすことが大切だと思います。
ですからビジネスにおいては、マニュアルばかりに頼るのではなく、まずは感じることだと私は思っています。感性がないとビジネスの成功はありえないと思います。

しかし、ダイアログ・イン・ザ・ダークは、体験直後からすぐに効果測定ができるような、合理的に計算できるようなツールではないと思っています。目指したいのは、体験した社員が楽しかった、優しい体験だった、など様々に感じたことで、1年あるいは2年後に社員の意識やモラルが良くなっていること。社内で体験した人数が100人、500人、1000人と増えていけば変わるかもしれませんし、あるいは、そのくらいでは変わらないかもしれません。ですが私は、社内でダイアログ・イン・ザ・ダークの体験者を増やしていくことで、3年、5年経った時に、この体験から当社は大きく変わったのだと振り返ることができればと思っています。

そして5年後、10年後には三菱UFJニコスの社員は、人柄が優しく仕事ができ、チームワークもよく、業績も素晴らしい会社だと言われるようになることを期待したいと思っています。そのためにはもちろん、感性だけを磨けばよいというものではなく、まずは仕事に対するそれぞれの取り組みをしっかりと行うことが必要で、感性というのはひとつの要素に過ぎません。しかし、とても重要な部分だと思っています。
 
共通認識をベースにダイバーシティをリードする―ダイバーシティとダイアログ・イン・ザ・ダークについての考えをお聞かせください
今、日本は少子高齢化がすすみ、価値観も多様化しています。また、新しい技術によって世界の情報がいくらでもキャッチでき、世界中のものを買うこともできる、グローバルかつボーダレスな時代となっています。

この潮流においても、感性という共通部分がないと企業は多様性を活用できず、マーケティングもできません。マーケティングは過去のデータや動向から分析しますが、それも感性がないと活かすことはできないのです。

これからの企業は、多様化する個々人の能力や感性を活かしていくことが特に重要となってきますが、従業員だけではなく取引先・委託先といったご提携先の方々も含めて、共通感性をもつこと、人間が本来持っている素晴らしい感性をベースにまとまることも大切だと思います。

どんなバックボーンがあるにしても共通部分として、人間としての優しさや素晴らしさがあり、それをベースに当社でも多様化していく社会をリードしていくことが重要だと考えています。

そのためには感性を正常化したり、リセットしたりすることが必要で、その場のひとつとしてダイアログ・イン・ザ・ダークを活用できるのではないでしょうか。

自分が背負っている様々な鎧や兜みたいなものを脱ぎすてて、人間の持っている本質的で優しく豊かな感性を取り戻すことが必要なのだと思います。